幼稚園の子どもさん達は、中学生のお兄さんお姉さんが来てくださるのをとても楽しみにしていました。「お兄さん達の好きな動物は何かなぁ?」「早く一緒に遊びたいなぁ。」と胸が高鳴り張り切っていたお友達。ところが、中学生のお兄さんお姉さんを目の前にするとびっくりしたような表情で思わず後ずさりをしてしまうほど大人しくなりました。年長児(5歳児)や年中児(4歳児)は、幼稚園を卒園すると「次は小学生になるんよね。」と、次の成長への一歩を知っているお友達もいます。しかし、小学校が終わると・・・?という問いかけには困ってしまうのです。私達大人は、幼い頃→小学校→中学校→高校→大学→就職と成長している経験があります。しかし、子どもさん達は‘今’を見て、聞いて、感じて一瞬一瞬を成長しているのです。‘中学生’という子どもさんの想像の世界。実際に見た中学生のお兄さんお姉さんの姿は、幼い子どもさん達からみるとあまりにも大人に見えたのでしょう。体の大きなお兄さんお姉さんに驚いてしまったようで‘怖い’と感じるお友達もいました。だけど、この気持ちも大切にして見守り、援助することで、この子どもさん達にも段々と気持ちの変化が表れました。
各グループに別れ、お兄さんお姉さんと一緒に自己紹介をします。普段は、誰よりも元気な声でご挨拶をし、とてもしっかり者のSさん。初めて会ったお友達にも自分からかけよっていくような女の子です。しかし、大きなお兄さんを前に恥ずかしそうに体をくねらせながら自己紹介をしています。どうしてでしょう?また、一人っ子のお友達は自分からお兄さんお姉さんとどう接したらいいのか分からず、なかなか近寄れないようです。しかし、その中の一人であるKさんはお兄さんに抱っこされたことがすごくすごく嬉しかったようで、中学生さんが帰った後も「お兄ちゃんが抱っこしてくれた。また遊びたい!」と私のそばに来てはピョンピョンと飛び跳ねながらずっと笑顔でお話しをしていました。よほど嬉しい体験としてKさんの心の中に焼きついたようです。
時代の変化やそれに伴う家族構成。一人ひとりの育つ環境の違いによって様々な世代の人と関わる経験は極端に異なります。Sさんの兄弟関係をみてみると妹が一人いる一番上のお姉さんです。自分よりも幼いお友達や同年代のお友達との関わりの中ではリーダーシップを発揮しますが、年上のお友達との交流が少ない分、お兄さんお姉さんの前ではどう接していいのか分からず委縮してしまいます。
絵本や手遊び、そしてコーナー遊びと時を重ねお互いにお話しをし、段々と肌と肌とがふれあう距離、そして心の距離が縮まっていく様子が目に見えて感じました。あっという間に交流の時間が過ぎ、今日はありがとうございました。というご挨拶の後、各お部屋で今日過ごしたお友達とさよならをします。私が中学生さんより後にお部屋に戻ると、そこには幼い子どもさんと中学生さんの笑顔いっぱい!嬉しそうに声を出してはしゃぐ子どもさん。お兄さんお姉さんに抱きついて「抱っこ。」と甘える子どもさん。手を握って離さない子どもさん・・・朝の緊張感はどこにもありませんでした。中学生のお兄さんお姉さんも喜びながら抱っこやおんぶ、肩車、グルグルと回してくれたり・・・グループの子どもさんだけでなくホームのお友達一人ひとりに温かく接してくれてお兄さんお姉さんの頼もしさや優しさを感じました。
最後に子どもさんと一緒にアーチを作ってお見送りです。もちろん子どもさんが作るアーチなのでとても可愛く小さなトンネルです。しかしお兄さんお姉さんは「ありがとう」「うわぁ、小さくてかわいいなぁ。」と、とびきりの笑顔で微笑みます。子どもさん達は「どうぞ。」と、大きな体のお兄さんお姉さんが通れるように懸命に背伸びをし、手の指先まで力いっぱいにかかげています。今か今かと待ち遠しくてたまりません。お兄さんお姉さんは大きな体を小さくして子どもさん達の真心にこたえようとしてくれます。お互いがお互いを思いやる。お互いに刺激し合い、お互いに学ぶ。そばで見ていた私もそんな子どもさん達の姿にとても嬉しく思いました。(中学生のお兄さんお姉さん幼い幼稚園の子どもさんの様子)
お天気もさようならの寂しい気持ちに比例してどんどん激しくなる雨。時間もせまっています。しかし、アーチをくぐり抜けても、靴箱には向かわないお兄さんお姉さん。そのくらい、子どもさんとの関わりを楽しみ可愛い、名残惜しいと感じたのでしょうか?自分の幼い頃を思い出したのでしょうか?事前に‘やんちゃ’と聞いていたお兄さん。とても明るく優しい笑顔で、子どもさんも「大好き、大好き。」と体いっぱいに伝えていました。子どもさんも中学生さんもきっと大切なことを学んだ時間だったと思います。
中学生さんが帰るときにも雨が降っているにも関わらず、玄関先、靴箱まで身を乗り出して「さようなら~。お兄ちゃんお姉ちゃんまた来てね。」と、姿が見えなくなるまでずっとずっと手を振っていました。給食の時には「中学生のお兄ちゃんってなんで大きいんやろ?」と呟くT君。「いっぱい食べたけんよ。お肉もお野菜もお魚も」と答えるH君。みんなお箸もすすみます。給食が終わると、お兄さんお姉さんごっこが始まり、お兄さんお姉さんがしてくれたようにお友達と輪になりお姉さん役の子が絵本を読み、お兄さん役の子が手遊びをし、今日の体験を早速お友達同士で表現していました。お迎えのD君はお母さんを見つけるなり猛ダッシュで駆け寄り「今日Sお兄ちゃんがね、抱っこしてくれたんよ」ととびきりの笑顔で伝え、お母さんも「よかったね。」と優しく微笑みます。次の日にも、その次の日にも、そのまた次の日にも「先生、今日お兄ちゃん、お姉ちゃん来る?」と、お兄さんお姉さんの来園を楽しみにしていたり、「僕はA兄ちゃんと遊んだよ。」「私はYお姉ちゃんがぎゅーってしてくれたんやけん。」初めの出会いで緊張を隠せなかったSさんまでも「今度来たらチューしてあげる。」なんて呟いたりしています。‘怖い’と感じたお兄さんお姉さん、一日、いえ、たった1時間のふれあいでお兄さんお姉さんは幼い子どもさんにとって‘かっこいい’‘やさしい’‘力持ち’とイメージが変化しました。きっとお兄さんお姉さんに憧れ、僕もこんなふうになりたいなぁ。とヒーローのように感じたのかもしれません。今でも一緒に遊んでくれたお兄さんお姉さんの名前を覚え、話しが尽きることはありません。
子どもさん達の楽しかったという気持ちや姿は近くで感じることが出来ましたが、中学校までバスで帰る際、中学生のさんもたくさんのお友達のことをお話ししていたことを園長先生から聞き、中学生さんも子どもさんと同じように無邪気に楽しんでくれたのかな?お互いにとって意味のある意義のある交流であったように感じます。同時に、私も中学生の頃を思い出し、今幼稚園教諭として働いているのは、中学生の時の職場体験での子どもさんとの関わりがきっかけであったこと、将来を真剣に考え強い気持ちで夢への第一歩を踏み出したことを思い出し、また、初心に戻って頑張ろうという気持ちや、この仕事をさせていただけることへの感謝の心を再確認する機会となりました。
本当に本当にありがとうございます。
最後に・・・
子どもさんと中学生さんの出会い(交流学習)から、ふれあいを通して時間が過ぎると共に子どもさんと中学生さんの心と心の絆が深まっていく様子が見てとれて、そばでみていた私もとても嬉しかったです。
園長先生が普段からおっしゃっているように、徳育教育の素晴らしさを実感し、夢と感動の物語の一瞬一瞬に胸が熱くなり私も涙がこぼれそうなくらい感動しました。