13歳からの道徳教科書 道徳教育をすすめる有識者の会編(育鵬社・1200円)
子供たちに、あるいはまだ見ぬ子孫のために、健全な社会を残し、よりよき生き方を伝えていくことは今を生きる者の責務だ。その務めを果たすべく、この世に生を受けた者は適切な年齢で道徳教育を受けなければならない。しかし、戦後の教育は道徳的見識を育てる人間学を全く軽視し、「人間如何に生きるべきか、人間どうあるべきか」ということを教えない教育であった。
本書では、その行為を見て「美しい」と感じることができる世界中のいい話、そしてとりわけ日本人が誇るべき数多くの先人たちの行った素晴らしい話が編纂(へんさん)されている。本書を読むと、私自身が昔読んでいて良書だと思ったものからの抜粋が結構含まれており、初めて道徳教育におけるまともな教科書が出版されたということで大変喜ばしい。
渡部昇一先生をはじめ本書の編纂に当たられた方々に心からの敬意を表するとともに、こうした書物が広く学校教育や家庭教育において活用されることを切に願ってやまない。併せて次の問題点としては、やはり今一度戦前のような師範学校をつくり、日本における道徳教育の教師を養成せねばならないということだ。
例えば、『論語』を読んでいて「孔子という人は類まれなる師だなぁ」と私は心底思うわけだが、戦後教育というものを日教組が牛耳っていく中で生徒を真に伸ばしていくことができる先生はどんどん減っていった。孔子と同じく素晴らしい教育者の一人に、森信三先生がいる。森先生には、大阪天王寺師範学校本科での講義を纏(まと)めた『終身教授録』という著作物があるが、その内容は実に見事で読んでいて感涙にむせぶことが何度もあったぐらいだ。
森先生のように情熱をもって教えと学びを共に実践していく人物が先生になるような教育制度の創設を「道徳教育をすすめる有識者の会」はぜひとも次のターゲットにすべきであろうと思っている。
いずれにせよ、本書が出版されたことは非常に喜ばしく、尽力された方々に心からの敬意を評したいと思う。
評・北尾吉孝(SBIホールディングス代表取締役CEO)